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鬼平を歩く『男色一本饂飩』~京橋から明石町

 今回は、第11巻1話の『男色一本饂飩』を取り上げた。
 主な舞台のうち、京橋、鉄砲洲、明石町を中心に歩きました。


◎ あらすじ
 火付盗賊改方同心・木村忠吾は受け持ちの本所から深川にかけて見廻り、大好物の一本うどんを出す、海福寺門前の豊島屋へ立ち寄った。
 忠吾が案内された部屋へ、後から来た大男の侍が「同席かまわぬかしら?」と男とも思えぬ妙な言葉遣いで話しかけてきた。
 その夜、忠吾は何者かに襲われ、気づいたときは、どこかの穴蔵の中にいた。
 3日目の朝になって長谷川平蔵は、見廻りから帰ってこぬ木村忠吾の探索の指示をだした。同心や密偵たちが探索に出かけたが、手がかりがつかめなかった。
 長谷川平蔵は、忠吾と一緒に行った豊島屋を思い出し立ち寄った。豊島屋の女中・お静は、木村忠吾が来たことを覚えていた。
 それから三日後、お静は木村忠吾と同席した大男の侍の姿を見かけ、因幡町の住居まで後をつけた。その旨はすぐに平蔵へ報告された。
 その夜から、大男の家の近くに見張り所が設けられた。
 

1 海福寺門前の豊島屋
 『 深川の諸方を見廻ったのち、蛤町にある名刹・永寿山海福寺の門前にさしかかった。
 日は傾いていたし、かなり歩きもした。腹も空いてきたし、こうしたときに海福寺門前へさしかかっていたので、どうしても忠吾、素通りできない。
 というのも、門前の豊島屋という茶店で出している一本饂飩が、忠吾の大好物なのだ。
 』

 海福寺は、目黒区に移転している。
 一本饂飩の豊島屋は、今年1月22日更新の『掻堀のおけい』(http://ken201407.exblog.jp/26574957/)に登場したので、そちらを参照されたい。


2 本湊町・湊稲荷
 『 築地の本湊町に〔稲荷や〕という居酒屋があって、そこの亭主・由五郎はお静の実兄だそうな。
  (中略)
 本湊町の兄・由五郎のやっている〔稲荷や〕は、湊稲荷の社に近く、居酒屋といっても土地柄、灰汁ぬけのした小体な店で…… 


 当時の湊稲荷は、八丁堀の河口に架かる稲荷橋の南詰にあった。
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 八丁堀は埋められ橋も残っていないが、橋名が彫られた橋柱が残っている。
 写真は、南詰から撮ったもので、この右側に稲荷社があったとおもわれる。

 稲荷社は、明治期に中央区湊1丁目の鉄砲洲通りに面している現在地に移転し、鉄砲洲稲荷神社となった。
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3 三ツ橋
 『 お静は路地を飛び出し、川沿いの道を、また、真福寺橋まで引き返した。
 そこは、楓川にかかる弾正橋、京橋川の牛の草橋、三十間堀の真福寺の三橋が十文字に交差する三つの堀川へ接近して架けられてい、世にこれを〔三ツ橋〕と呼ぶ。
 』

 中央区銀座1丁目18番地に「三つ橋跡」の説明板が立っている。この説明板には、次のように書かれている。
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「 所在地   弾正橋 …… 中央区京橋二・三丁目~八丁堀三・四丁目
        白魚橋 …… 中央区京橋三丁目~銀座一丁目
        真福寺橋 … 中央区銀座一丁目~新富一丁目

 ここから北方約三〇メートルの地点には、明治の末年まで、北東から楓(もみじ)川、北西から京橋川、東へながれる桜川、南西に流れる三十間堀が交差していました。この交差点に近い楓川に弾正橋、京橋川に白魚橋、三十間堀に真福寺橋が架かり、この三橋を三つ橋と総称していました。
   (以下略) 」

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 ここから北方約30mの位置は、ここから北側の東京高速道の真下に相当する。
 東京高速道路は京橋川跡の上、楓川の真上には首都高速都心環状線が、川が交差していた付近には京橋JCTができた。

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 現在の弾正橋は、「鍛冶橋通」の拡幅開通に伴って架設されたもので、当初の場所より北側に移設された。

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 橋の横に公園が整備され、「元弾正橋」のモニュメントが設けられている。
 明治11年、鉄橋に架け替えられた。これが、我が国最初の国産鉄骨橋梁で、歴史的な橋である。この現物は、現在江東区の富岡八幡宮東側の八幡堀遊歩道に架設され、橋名は「八幡橋」になっている。

 原作にある牛の草橋は、白魚橋の別称で、江戸名所図会には牛の草橋と記されている。


4 大男の住居・因幡町
 『 そして大男が、南塗師町二丁目と因幡町の間の道を左に切れこむのを、たしかに見とどけたのである。 』

 『 因幡町二丁目に〔算者指南〕の看板をかかげている寺内武兵衛がそれであった。 』

 因幡町は現在の中央区京橋2丁目の都営地下鉄浅草線「宝町」駅付近にあたる。
 原作にある因幡町二丁目は、江戸切絵図には表記がない。 

 南塗師町二丁目は、江戸切絵図によると松幡橋西詰の通りより一つ北側になる。
 その松幡橋もある。

 “南塗師町二丁目と因幡町の間の道”とは、中央区京橋2丁目14番地と、京橋2丁目16番地の間の道に相当する。
 そして、寺内武兵衛の住居は14番地だったと思われる。

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 写真は京橋2丁目14番地に建つ兼松ビル、その奥は16番地で清水建設ビルが建っている。



5 本材木町三丁目の旅股引問屋・尾張屋
 『 武兵衛が算者として出入りしているところは
    (中略)

 楓川に西岸、本材木町三丁目の足袋股引問屋〔尾張屋宇八〕方であった。 』

 本木材町三丁目は現在の日本橋3丁目の「江戸・もみじ通り」沿い。
 江戸・もみじ通りは、中央区日本橋1丁目18番から3丁目15番までの昭和通と都心環状線の間の通りをいう。
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 寺内武兵衛は、尾張屋宇八から家族同様の待遇を受けていた。また、武兵衛の住む家は、尾張屋の借家であった。


6 十軒町の寺内武兵衛の盗人宿
 『 対岸の大名屋敷にはさまれた細長い一角が十軒町の飛地になってい、そこに荷舟宿がある。荷舟宿というのは、人の荷舟を預かりもするし、貸しもする。
 この荷舟宿が実は、寺内武兵衛の〔盗人宿〕だったのである。
 』

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 十軒町は、現在の中央区明石町13番地で上記写真の正面一帯になる。

 対岸とは、鉄砲洲川の川岸のことで、鉄砲洲川は中央区湊2丁目の隅田川堤防際にある児童遊園付近から湊3丁目9番地で直角に曲がり、鉄砲洲通を聖路加病院前まを通ってあかつき公園までつづいていた。
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 写真の正面奥は隅田川の堤防でその手前に児童公園がある。
 奥に延びる道路が鉄砲洲川だった。手前は湊3丁目9番地の交差点で、川はここから右に曲がっていた。川は埋めたてられ鉄砲洲通となった。 

 木村忠吾は、ここの二舟宿の地下蔵に監禁されていたのだった。


7 長谷川平蔵と寺内武兵衛が対峙した築地川軽子橋
『 突き込み、切り払って、寺内武兵衛が無二無三に攻撃し、たちまちのうちに築地川の川べりへ平蔵を追いつめ、
 「鋭!!」
 裂帛の一声を発して拝み打ちに切り下す刃風の下を、長谷川平蔵が燕のごとく逃げ、軽子橋の東詰へ後退した。
 』

 築地川は、築地が埋めたてられたとき、築地を取り囲むように埋め残された部分が川になったといわれている。本流のほかに、東支流、南支流があった。
 築地川は数度の埋め立てにより、本流のほとんどが、首都高速環状線に転用され、その一部の河口が浜離宮庭園付近に残っている。東支流の一部は築地川公園になった。
 軽子橋は、中央区築地2丁目1番と明石町の間に架かっていた。現在の築地川公園多目的広場のあたりになる。軽子とは荷揚げ人夫のをいっていた。
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 写真は、入船橋から撮ったもので、中央が築地川公園多目的広場。築地川東支流は、中央奥から右側の樹木が植わっている下を流れていた。
 軽子橋は中央奥辺り(階段の右側)と思われる。

 平蔵は、橋の欄干から武兵衛の頭上を飛び越えるようにして一刀を腰のあたりに切りつけ、成敗した。


8 エンディング
 捕えた寺田武兵衛宅の老僕・吉六の自白によると、寺田武兵衛は盗賊首領で、尾張屋へ盗みに入る計画であった。そのため、武兵衛自ら尾張屋へ入り込み内の隅々まで調べあげたのだった。
 また、武兵衛は桁はずれの男色で、木村忠吾は武兵衛好みだったので、盗みのあとの楽しみにするため誘拐・監禁したのだった。
 このことは、盗賊改方の役宅内でうわさとしてひろまった。

 ある日、平蔵は忠吾と一緒に深川へ見廻りに出かけた。
 そのとき、忠吾は平蔵に

 『 「私は、操を、まもりぬきました。まことでございます」
   言下に平蔵が、事もなげに、
   「知れたことよ。おれには、すぐにわかった」
   いうや、背を見せて歩みはじめた。 』



by ken201407 | 2017-07-27 09:28 | 鬼平犯科帳

徒然にデジカメで撮った写真を掲載します。


by ken201407
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