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鬼平ゆかりの地を歩く~「本所の銕」の青春

  今回は、長谷川平蔵が生母の実家・三沢家から入江町の屋敷に移った17歳から、父・宣雄の京都町奉行赴任に着いて行くまでの青春時代を過ごした町・本所を訪ねました。

  鬼平犯科帳「本所・桜屋敷」(1巻)で、長谷川平蔵が長官就任後初めて市中見廻りをする件がある。
  「平蔵の足は本所へ向かった。 本所には彼の〔青春〕がある。
  「幅二十間の本所・横川にかかる法恩寺橋をわたりきった長谷川平蔵は、編笠のふちをあげ、さすがに、ふかい感情をもってあたりを見まわした。

  この件で、長谷川平蔵が本所にどのような気持ちをもっているかが十分推し量られます。
  そして話の舞台として、最も数多く登場する町なのです。

  本所・桜屋敷は、平蔵が市中見廻りで入江町の旧宅から法恩寺の方角へすすみ、荒れた高杉道場跡へ訪れます。ここで、剣友・岸井左馬之助と偶然に再会することから話が展開していきます。
  と同時に、長谷川平蔵の生い立ちや「本所の銕」といわれた所以など青春時代の平蔵が描かれています。

  今回は、「本所・桜屋敷」に登場する舞台を中心に、次のところを訪ねました。
    ・ 長谷川平蔵屋敷跡(史実)
    ・ 本所松井町
    ・ 軍鶏なべ屋「五鉄」
    ・ 入江町の長谷川平蔵旧邸と 鐘楼の鐘
    ・ 相模の彦十の家
    ・ 高杉銀平道場
    ・ 法恩寺
    ・ 出村の桜屋敷(名主・田坂直右衛門屋敷)
    ・ 春慶寺(剣友・岸井左馬之助の寄宿先)


◎ 長谷川平蔵屋敷跡(史実)
  都営地下鉄新宿線・菊川駅のA3出口前に、「長谷川平蔵住居跡」の銘板が掲出されています。
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  正面の一角が長谷川平蔵の屋敷で、後に遠山金四郎の下屋敷になります。
  この辺は、本所でも南本所にあたります。
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  銘板設置場所から新大橋通りを東側約100m先の歯科医院前にも長谷川平蔵住居跡の銘板があります。
 


◎ 本所松井町
  平蔵が高杉道場跡で剣友・岸井左馬之助と再会し旧交を温めた後、偶然に相模の彦十に出会うのです。
  相模の彦十とは、「本所の松井町一帯の岡場所に巣喰っていた香具師あがりの無頼者で、むろん平蔵よりは年長なのだが・・・「入江町の銕さんのためなら、いのちもいらねえ」などと、言いふらし、若い平蔵を取り巻いていた八つどもの一人であったのだ。」(本所・桜屋敷)
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  松井町は、現在の墨田区千歳2丁目~3丁目に辺りになり、もちろんのこと当時の面影はありません。


◎ 軍鶏なべ屋・五鉄
  二十何年か振りに彦十と出会い、二ツ目橋の〔五鉄〕という軍鶏なべ屋へ入ます。
  「平蔵はむかし、この〔五鉄〕へ来て飲み食いをしては、「入江町の鬼銕だ」この一言で、当時の亭主であり、三次郎の父親でもあった伝兵衛をふるえあがらせ、何度も勘定を踏み倒したことがある。
  (中略)
  父の跡を継いだ平蔵は、〔五鉄〕にあらわれきちんと借りをはらい、ほかに金二十五両をみやげがわりに伝兵衛へ贈っている。
」と、平蔵と五鉄の関わり合いを、「夜鷹殺し」(4巻)に著しています。
  この後、五鉄は、〔火盗改メ〕の重要な連絡場所として、密偵・おまさ、雨引きの文五郎、相模の彦十が店の二階に寝泊まりするようになるのです。
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  二ツ目橋は、堅川に架けられている橋で、隅田川から2番目の橋の名称です。


◎ 入江町の長谷川平蔵旧邸と 鐘楼の鐘
  「長谷川家は本所・三ツ目に屋敷があった。(中略)横河河岸・入江町の鐘楼の前が、むかしの長谷川邸で・・・」(「本所・桜屋敷」)と入江町の旧邸を著しています。
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  江戸切絵図では「長谷川」と表記された屋敷があるが、史実の長谷川平蔵屋敷は前述の場所なので、ここは小説上設定された邸となります。

  入江町の鐘楼は、「本所時之鐘」として横川北辻橋西側の横川河岸に鐘撞堂がありました。
  現在は、大横川親水公園にレプリカが設置されています。
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◎ 相模の彦十の家
  「町へ出た五郎蔵は、かの相模の彦十の住居へ入った。彦十は、本所・三笠町一丁目の裏長屋に暮らしている」(5巻「深川・千鳥橋」)と、彦十の住居が書かれています。ここは、現在の墨田区亀沢4丁目にあたります。
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  後に、彦十はここを引き払い、軍鶏なべ屋・五鉄の2階で寝起きするようになります。


◎ 高杉銀平道場
  義母から「妾腹の子」といわれ、奉公人同様の扱いを受けた平蔵は、無頼の道に踏み込むが、「こうした中で、平蔵は高杉道場の稽古だけは休まなかった。世間への反抗と鬱憤は、猛烈な稽古によって発散される。彼の剣術がめきめきと進歩するを見せたのも、このころであった。」(本所・桜屋敷)
  荒れた道場門内の庭で、「茫然と感慨にひたりこんでいた平蔵へ、するどい刃風が真っ向から襲いかかった。」剣友・岸井左馬之助が、平蔵と知って斬り込むが、それをかわした平蔵は左馬之助と気づく。
 お互い、二十余年振りの再会を喜び合ったのです。
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◎ 法恩寺
  法恩寺は、太田道灌が江戸城築城にあたり丑寅の方に城内鎮護の祈願所として建立したお寺。
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  高杉道場跡で再会した、長谷川平蔵と岸井左馬之助は、法恩寺門前の茶店〔ひしや〕で湯豆腐で熱い酒を酌み交わすのです。
  ここでの話題は、「出村の桜屋敷」のおふささんのことです。
  高杉道場の高杉先生が「桜屋敷のおふささんがあらわれると、銕も佐馬も、顔へ真赤に血をのぼらせ、あの面かまえでおくめんもなくはにかむなんぞは、どうだえ」(本所・桜屋敷)と、門人にいっては、おかしげに笑った。


◎ 出村の桜屋敷(名主・田坂直右衛門屋敷)
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  高杉道場のすぐ近くにあって、このあたりにめずらしい数本の山桜の老樹がつらねる宏大な屋敷を〔出村の桜屋敷〕と土地の人びとがよんでいた。平蔵が高杉道場へ通っていたころは、名主は十代目・田坂直右衛門で七十余歳になり、孫娘のふさと数名の奉公人と過ごしていた。
  孫娘・おふさに、長谷川平蔵と岸井左馬之助がともに思いをよせていた。
  下は大横川親水公園、右側の建物が「桜屋敷」の場所になります。



◎ 横川・法恩寺橋
  本所・桜屋敷のなかに横川(現・大横川)と法恩寺橋は重要な舞台として登場します。横川に架かる法恩寺近くの橋が法恩寺橋です。
  印象的なのは、「その日・・・。横川に浮かべた数層の舟へ、花嫁と立派な嫁入り支度をのせ、これがゆったりと水面をすべって行くのを、平蔵と左馬之助は、道場の門外に立ち、青ざめた顔で見送った。」です。
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  それと、作品のラストシーンです。
  舟で横川に入った平蔵は、桜屋敷の満開の山桜が散る風情を舟を留めながめる。「煙管を取出し、煙草をつめかけた長谷川平蔵はゆびのうごきが、はたとやんだ。(あれは・・・・?)対岸の草地に、ぼんやりとたたずむ男ひとり。総髪に筒袖の着物、軽袗袴・・・・。(佐馬だ・・・・あれは左馬之助だ)平蔵は、ぬぎかけた編笠をあわててかぶり、船頭に「舟をやれ」と、いった。
  現在の大横川は一部埋め立てられ、大横川親水公園として散歩・ジョギングや憩いの場所として地域に人びとに親しまれています。



◎ 春慶寺(岸井左馬之助の寄宿先)
  寛文七年(1667)浅草森田町から現在地に移転した、真如院日理上人によって創建されたお寺です。
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  岸井左馬之助の独身時代の寄宿先として登場します。
  テレビドラマで岸井左馬之助を演じた江守徹の揮毫による『岸井左馬之助寄宿の寺』という石碑が平成15年に建てられた。

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  東海道四谷怪談の作者四世鶴屋南北の菩提寺で、境内には「鶴屋南北の墓」や「関東俳優之碑」が残っています。
 

◎ 今回のコース図
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◎ 本所絵図
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  本所の各所を訪ねましたが、どこに行っても見えるのは東京スカイツリーでした。当時の人がもしこれを見たらさぞやビックリしたことでしょう。
  それともうひとつ、相撲部屋でした。名古屋場所が終わり巡業中なのでしょう、どこの部屋も静かでした。

  「鬼平ゆかりの地を歩く」と題して5回連載しました。
   第1回目 清水門外の役宅と平蔵の妻・久栄の実家
   第2回目 組屋敷と長谷川平蔵菩提寺・戒行寺
   第3回目 長谷川平蔵の目白台私邸
   第4回目 平蔵の実母の実家・巣鴨の三沢家
   第5回目 平蔵が青春時代の本所

  長谷川平蔵の私的・公的に深いかかわりあいのある場所で舞台となったところをピックアップして訪ねました。
  「鬼平ゆかりの地を歩く」とした連載は今回で終わりとします。
  次回からは「鬼平を歩く」と題し、物語の舞台となったところを、さらに訪ね歩きたいと思っています。
by ken201407 | 2015-07-31 23:46 | 鬼平犯科帳

徒然にデジカメで撮った写真を掲載します。


by ken201407
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